【あたしの独り言②】機械化できることとできないことがある!はずさ!

松本市にある大きな病院を受診した。

栂池からは車で片道1時間半ほどかかる 。

松本市は私が訪問看護師としての人生をスタートした場所。やはり懐かしい。

すっかり雪景色になった小谷村が嘘のよう。

青く晴れ上がった空の下、いつもそばでドンとそびえ立つ北アルプス連峰が、遠く向こうの方に美しく並んでいる。

これが安曇平の美しさなんだろう♪

 

私が臨床を離れてもう18年を超える。久しぶりの大きな総合病院だ。

広い敷地内を案内に従って移動しようやく受付に到着。ご紹介いただいた先生の科へ向かえることになった。

今の時代当然ながら病院もすべての対応はPCを通して。

優しい口調の女性事務スタッフさんはPCモニターを見たまま話し、結局一度も私と目が合うことはなかった。

それぞれの科の受付カウンター。事務服を来た方だけでなくナース服を来た方々もあちらこちらにあるモニターに向かいマウスを動かす。

外来受付でバーコードのついた書類を提出。

「じゃそちらで血圧計ってください」

指された手の先には大きな自動血圧計が2台並ぶ。

取り扱い説明を読みながら、自分で計る。

ブーっとエアーが入り腕が締め付けられる間、

昔、水銀の血圧計を脇に抱え、自分の初めてのお給料で買った眩しい黄色の聴診器を首からかけて「夕べはちゃんと眠れました?」なんてお話しながらプシュプシュと空気を入れて血圧測定してた自分の姿を思い出した。

ジーっと印字され発行されたあたしの血圧と脈拍数。

えー💦脈拍90???

思わず人差し指・中指・薬指の3本を自分の手首にあて脈拍を確認してしまったf(^^;

この値が診察に影響するんだろうか、とか、

先生はこれを鵜呑みにするのか?とか、

もう1回測ってもいいのかな、とか、

瞬時についいろいろ考えてしまった(笑)

患者さんってのはきっとそんな小さな『❔』を頭に抱えたまま誰にも聞けずに黙ってそこにいるんだろうとあらためて思った。

受付カウンターに立つナースから番号で呼ばれ、診察室に向かう。

予約がとれない人気の先生なのだそうだ。

初老の、とても品のある優しい語り口の医師。

彼は2台のPCモニターを並べ、そこに向かい、私と会話することを端からキーボードで打ち込む。

『カチャカチャカチャカチャ』

沈黙時間にはキーボードを叩く音だけが響く。

私の左後ろではナースも別のPCモニターに向かいキーボードを叩いている。

PCモニターに向かいカチャカチャと懸命にキーボードを打ってる人に話しかけることって

できないものだ・・・

医者は現れている症状に対して何をするか、そればかり。分かっていたつもりだった。

「治ることはありません」

「感覚麻痺は今後も進んでいきますよ」

「筋力がこれ以上落ちないよう鍛えることはできますが」

・・んなことはわかってる。散々言われてきた。

わからないのは、

なぜこうなっているのかなんだ。

なぜ全身の感覚麻痺があるのか。

なぜ改善しないのか。

何をすれば軽減されるのか。

筋肉や肩甲骨がこり固まり、背中は石を背負ってるような日々がもう14年も続いているのだ。

答えが出せない・・・これが西洋医学なんだ。

 

東洋医学ではどう考えるのだろう。

漢方の薬剤師の先生はおっしゃった。

「私今まで5000人以上の方診てきてますけど、まずここまでの方はあなたが3人目。しかもこの状態にありながらうつ病にならず私の前でこうして笑ってお話されてる。あなたは強いんだと思います。自分よりもまず人なんだね~。よくここへ、僕のところへ生きて来てくれました!」

訳もわからず涙が溢れて溢れて・・・

張り詰めて生きていたんでしょうね。無意識だけど。

ベルグを守らなければ。旦那様を守らなければと。誰に頼まれたわけでもないのに、勝手に腕捲りした。

それが女将気質ってもんだろう。嫌いじゃない。

「きっかけは交通事故だったのかもしれない。でもこのこりやしびれ、感覚麻痺の原因は事故ではない。

感じなくするしかなかったのよね、あなた。

感じたら立てなくなってしまうから。そうでしょ?いろんなこと、受け止めるしかなかったんだよね?ひとつひとつに抵抗したり疑問を持ったりしたらもう前に進めないってわかってるから、無意識に封じ込めたんだよね。

あなた自身が作ったんだよ、この体。」

東洋医学とは実に深いものだと思った。

 

それでもやはり数値で見えたり、解剖学的に説明のつく西洋医学で納得したい自分もいた。

「先生、私はただ、楽になりたいだけなんです。しんどいんです、何をするにも。この鉛のような体のまま死ぬまで行くしかないんですか?何も方法はないんですか?

まっすぐ上を向いて寝たい。それだけなんです。何かできることはないんでしょうか」

かなりがんばって、キーボードの音だけの静寂の中、医師の横顔に向かって話しかけてみた。

「う~ん・・・じゃMRIやってみる?」

「まあ、死んでしまった神経は白く映るだけで回復するわけではないんで」

「あなたの場合事故のあとまともに治療してないからね~」

だってあのとき一生治らないと言われたからなのに・・・

答えになってない💧

「もう一年以上もちゃんと眠れないんです。夕食後にはテーブルに伏せて寝てしまうほどなのに、夜10時を過ぎたらパチーンと目が開いて3時頃まで寝付けないんです。どうしてでしょう?」

それを不眠症と言いますよね?という言葉は飲み込み医師の横顔を見つめた。

「う~ん・・・じゃお薬出します。てんかんの薬だけどね、副作用で眠くなるから」

違う違う!どうしてなのか、何がおきてるのかが知りたいの。

てんかんの薬ってさ、

副作用で寝れるからってさ、じゃてんかん薬の作用は?どこに効くの?

薬で眠りたいんじゃない。なぜ眠れないのかを知りたいの。

・・・言えなかった。

こんなとき、外来のナースは患者さんの表情や態度からいろんなことを読み取り、医師との通訳になるのは大切な役目だ。でも、

彼女も自分のモニターを見つめ、キーボードを叩いている。

私の血圧と脈拍が印字された用紙は誰にも見られることはなかった・・・

思いきって聞いた。

「あの、てんかん薬の副作用で寝れると先生はおっしゃいましたが、てんかん薬って強いんじゃないんですか?大丈夫なんですか?」

すると

「お薬をもらうときに薬剤師に聞いてください」

えっ⁉あなた、ナースよね⁉

『分業』、ということか・・・

ナースになってすぐは私もこういう総合病院の臨床でたくさんのことを学んだ。

あの頃指導してくださった先輩方の年はとうに超え、主任や師長をしていた方々と近い年齢になった。

ナースが患者さんを見つめないで誰が見つめるの?

そんな考えは古いのか・・・

 

人対人の関わり、

気持ちの繋ぎあい、

日本人独特のあうんの呼吸とかおもんばかるとか、読み取るとか

人対人のサービス業には高いコミュニケーション能力が必要で

それを追い求め自分を磨くことこそがサービス業者の醍醐味のはずだと

機械は便利で仕事にはなくてはならないものだけれど、人が機械を使わなければ。

機械に人が使われていては本末転倒だ。

こんなことを思える自分になったのは『医療』と『宿泊』、まったく違う場所で生きているようで実は同じホスピタリティが大事な厳しい世界で人間ととことん向き合ってきたからだろう。

私の人生、実はとっても得をしているのだろうよね♪そうよ、きっと♪

どんどん機械化、合理化が進む中で本当に大切なものは何かを見失うなよ、という機会をたくさん与えられてきた。

 

しかしながら、

「治らない」「麻痺はさらに進む」が頭の中でこだまし、

なんとかよくなるようにと精一杯協力してくれている旦那様、子供たち、スタッフのみんなにもただただ申し訳なく・・・

一人SAに停めた車の中で何時間も呆然としてしまった・・・

帰らなければ・・

ベルを亡くし

体がよくなる希望もなくなり

ただ今ぽか~んとしているあたしです・・・